塗料の専門用語カンタン解説コーナー・第二回”VOC”

さて、塗料の専門用語を簡単にわかりやすく説明するこのカンタン解説コーナー。
前回のF☆☆☆☆に続き、今回は塗料と切っても切り離せない関係性である“VOC”についてお送りいたします。

そもそもVOCって何?

“VOC”という言葉、聞いたことはあるけれどそもそも何なのか。
ご存知の方は意外と少ないのではないでしょうか。
VOC(Volatile Organic Compounds)は日本語では揮発性有機化合物と訳されます。何だか難しい言葉ですね。

噛み砕いて説明すると、大気中に揮発(常温で液体から気体になること)する有機化合物、つまり炭素を含む2種類以上の元素が結合した化学物質のことです。VOCは例としてトルエンやキシレン、パラジクロロベンゼンなどが挙げられます。

VOCは塗料をはじめ、インクや接着剤など身近なものに用いられています。これらが揮発することで、シックハウス症候群などの健康被害をもたらしたり、紫外線と化学反応を起こして光化学スモッグの原因となることが報告されています。
こうした問題に対して、欧米や諸外国ではいち早く対応がなされ法規制が盛んに行われてきました。
例えば、米国での大気浄化法(1963年制定/1990年改正)、英国での環境保護法(1990)などが一例として挙げられます。

大気浄化法では180を超える有害な大気汚染物質の規制基準が設けられ、英国でもVOC排出量の規制について明記されると同時に、”一定のプロセスで発生した物質の放出による環境汚染を防止、あるいは削減するための技術や技法の発展に従うことは、地方自治体の義務である”との明記がなされました。(引用:Discharge and scope of functions.PART 1 Preliminary-4, Environmental Protection Act,1990)
単純に企業に任せきりにするのではなく、行政と民間団体とが一致団結してVOC削減にあたるという理想的なモデルは、この頃から諸外国に根付き始めていたのかもしれません。

さて、日本でも国内外を問わずVOC削減の重要性の認知度が高まっていく中で、一部の地方自治体ではVOC規制に関する条例が先駆けて導入され、その後少しずつ政府主導による法的な整備が推し進められてきました。2003年の改正建築基準法の制定は、その最たる例と呼べるでしょう。
これは、VOCの中でも特に有害とされていたホルムアルデヒドとクロルピリホスを制限するという内容でした。クロルピリホスは全面的に使用を禁止され、一方のホルムアルデヒドについては基準「F」が導入され、厳しい使用基準が設けられることとなりました。

基準「F」やF☆☆☆☆についてもっと詳しく知りたい方はこちら!
塗料の専門用語簡単解説コーナー・第1回”F☆☆☆☆”| ペイントマルシェ (paintmarche.com)

続く2004年には大気汚染防止法の一部改正によって、大規模な工場などの施設でのVOC規制が設けられました。この際、VOC削減に対する法規制と事業者の自主的な取組み、相互の協力によって2010年までに2000年比で約30%のVOC削減を実施することが目標として設定されました。
この高い目標設定からも、VOC削減の重要性がお分かりいただけることと思います。

塗料業界におけるVOC削減について

さて、塗料業界でのVOCの規制についてお話しいたしましょう。
塗料業界は様々な製品品目の中でもひときわVOCの排出量が多いことから、より一層厳しい制限が求められている業界でもあります。
2000年度の環境省の資料によると、VOC総排出量140万tのうち、塗料業界のVOC排出量はおよそ53万tを占めていました。(出典:発生源品目別 VOC 排出量の推計結果、 平成28年度 揮発性有機化合物(VOC)インベントリ作成等に関する調査義務 報告書)

割合にして、実にVOC排出量全体の4割弱を占めるに至ります。
当然、この数値は発生源品目の中でも最も大きな数値です。そういうわけで、法規制に適合したうえでVOCの排出を抑えるため、塗料業界では並々ならぬ努力を重ねてきました。
これまで幅を利かせていた既存の溶剤系塗料では法規制を遵守するうえで限界が出てきたため、低VOC塗料やハイソリッド塗料といった次世代向けの塗料が続々と世に送り出されてきました。

しかし、残念ながらこれらはいずれもVOCの大幅な削減には至りませんでした。
そこで一躍脚光を浴びたのがなにを隠そう、弊社の顔でもある水性塗料だったのです。

水性塗料の躍進

環境対応型塗料の中でも、水性塗料はひときわ環境にやさしく、また安全面でも優れたものでした。例えば、水性塗料はVOC含有量が総じて少量の為、ニオイが少ないという大きなメリットを有しています。また、引火の心配もないので施工業者さんや個人で塗装される際にも保管が比較的簡単です。

このように時代のニーズに合った水性塗料は少しずつではありますが着実に浸透し、2020年度の経済産業省の資料(引用:経済産業省 化学工業統計月報)によれば、水性塗料の消費量の割合は塗料総使用量のうち全体の40%以上を占める結果となりました。
1995年の資料では水性塗料の割合は15%にも満たないほどでしたから、これは劇的な躍進といっても過言ではないでしょう。
水性塗料を扱う企業としては、これからもぜひ水性塗料の身近さや便利な機能について、もっと幅広い方々に知っていただきたいと願うばかりです。

ちなみに、弊社では屋外用塗料でガードラックという塗料シリーズ(溶剤系/水性)を販売しているのですが、2016年時点で弊社のガードラックシリーズの製造量のうち、なんと8割以上が水性タイプでした。
水性タイプの塗料がこれだけ愛されているのも、お客様に高い機能性や簡便な作業性が溶剤系の塗料にも負けずとも劣らないと実感頂けたからなのだと感じます。
これからも皆さんに水性塗料を安心・安全に使っていただくため、日々精進を重ねてまいりたいと思います。
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VOC削減の現状と塗料業界の今後について

さて、塗料業界の様々な企業のたゆまぬ努力と政府の法整備の甲斐あって、2015年には塗料業界全体のVOC排出量は約27万t、2000年の調査結果と比較して約50%もの削減を達成するに至りました。
ここまで目に見える形でVOCを抑制できるようになったわけですから、むろんこれは喜ばしい結果と言えるでしょう。
しかし、もちろんここでVOC削減の対策が終わるわけではありません。
法的整備に加えて企業側の努力は今後とも必要不可欠な要素ですし、塗料業界のみで言えばVOC削減を果たしたといっても、その排出量は依然全体の4割ほどを占めています。

VOCをいかに削減し、より安心・安全な塗料を皆様にお届けするか。
この問いは今後の持続可能な社会の発展の上でも、また塗料をご使用になる皆様の健康を守るという意味でも、塗料業界全体に課せられた至上命題とも呼ぶべき大きな課題であり、目標なのです。